ニャート

パニック障害で退職→ひきこもり→非正規雇用の氷河期世代。だめ人間が何とか日常を投げずに生きていくためのメモ書き。

「日本沈没」漫画版に見る、首都直下地震・火災旋風の恐怖

「日本沈没」漫画版を読んでいて、首都直下地震、特に火災旋風の恐ろしさに震えたので紹介したい。

「日本沈没」漫画版6巻_首都直下地震

引用:「日本沈没」6巻|小松左京(原作)・一色登希彦(著)

「日本沈没」漫画版(一色登希彦)とは

「日本沈没」(著者:小松左京)は1973年刊行のSF小説だが、さいとう・プロ版(1970年代)と一色登希彦版(2006〜2008年)の2つの漫画版がある。ここでは一色登希彦版を紹介したい。

一色登希彦版は、ストーリーは小松左京の原作を基にしているが、原作が書かれた1970年代には存在しなかった社会問題や科学観、2006年映画版の要素も取り込んでいるので、原作とは異なる点も多々ある。たとえばストーリー冒頭の、新宿の雑居ビルが地中に飲み込まれる事件は原作にはない。しかし、文章に絵が付くことで描写の迫力が増すのが漫画版の面白さだ。2022年10月時点ではKindle unlimitedの読み放題で読めるのでぜひお勧めしたい。

「日本沈没」漫画版で描かれた首都直下地震の被害とは

「日本沈没」の原作・漫画版ともに、海面上昇を原因とする、地下岩盤へと加わる力の変化により日本が沈没していくのだが、その過程で第二次関東大震災が起こる。

2006〜2008年連載の「日本沈没」漫画版では、どのように第二次関東大震災を描いているのか。

漫画版では、2005年に内閣府の中央防災会議が算定した首都直下地震の被害想定、死者数1万1千人に対して、次のように疑問を呈している。

『死者数1万1千人』この数字は…
21世紀初頭、日本政府中央防災会議が発表した、東京で大地震が発生した際の想定死者数である。
冬の夕方18時、風速15m、M7.3とある。
資料の最後には、ていねいなことわり書きが添えてある。
注視して欲しいのは、近代都市での巨大地震に最も危惧するべき要素がごっそりと抜け落ちている点だ。
また、想定死者のグラフの中に『交通被害2%、およそ200人』とある。
列車1本の脱線転覆事故が100人単位の死者を出す事が衆目に晒されてなお、数百本の列車が走る首都圏に於いて…?
ほぼ車輌のない高速道が倒壊した阪神淡路大震災。
そこに夕方のラッシュ時、大量の車があったとしたら…?
「東京」が、規模も人口も実質「神戸」の約10倍であるという事実を…
誰もが忘れてしまった故に……?
死者15万を出した関東大震災のみならず、阪神・淡路大震災も忘れてしまったが故に…
想定死者1万人ほどで済むなどと言えるのであろうか…!?

引用:「日本沈没」6巻|小松左京(原作)・一色登希彦(著)

つまり、首都直下地震の想定死者数1万1千人(2005年版)は、「近代都市での巨大地震に最も危惧するべき要素がごっそりと抜け落ちている」ため、あまりに少ない見積もりだと言っているのだ。

この、抜け落ちている「最も危惧するべき要素」とは、中央防災会議による被害想定レポートでは、下記の被害シナリオが考慮されていないことを指している。むしろ、下記のシナリオこそが震災による被害そのものだと言うのに。

定量評価では考慮されていないその他の被害シナリオ(例)

  • 長周期地震動による超高層ビルの被災
  • 余震の発生や大量の降雨による二次災害の発生
  • 細街路の道路閉塞による消火活動や避難活動の阻害
  • 鉄道事故で対向列車との衝突が発生
  • 大規模な集客施設での火災の発生、デマ・流言等をきっかけとしたパニック
  • 一部の繁華街等での治安の悪化
  • 金利、株価等の変動による経済活動への影響

引用:首都直下地震の被害想定(概要)|内閣府防災情報のページ

※なお、この被害想定レポートは古いものであり、直近では2022年5月に、東京都が「首都直下地震等による東京の被害想定」を公表している。

前書きが長くなったが、つまり「日本沈没」漫画版では、中央防災会議の被害想定では考慮されていなかったシナリオがすべて起こったら、首都直下地震の被害はどのくらい甚大になるのかを、漫画オリジナルで表現しているのだ。

どのような順番でどのような地震被害が起こるのかは、ぜひ漫画版で確認してほしいが、一色氏が漫画内で想定した被害数のみ引用しておく。

最初の10秒で、30万人がほぼ「即死」した。
次の数十秒で100万人が死んだ、あるいは致命傷を受けた。
落ち、潰れ、圧され、裂かれ、千切れ、捻れ、捥げ、踏まれ、
そしてその後の数時間で今度は…
最初の1分間よりは比較的ゆっくりと…
今度は、焼かれ、溺れて、300万人ほどが死ぬ。

引用:「日本沈没」6巻|小松左京(原作)・一色登希彦(著)

関東大震災における火災旋風の恐怖

「日本沈没」漫画版が描く第二次関東大震災の被害で、私が一番恐怖を感じたのは、西新宿地区の高層ビル下の避難所に集まった数十万の人間を燃料に燃え盛った「火災旋風」の恐ろしさだ。

「日本沈没」漫画版はフィクションであり、描写がオーバーなところもあるので、それほど恐怖を感じる必要はない。しかし、関東大震災での火災旋風による被害は知らない人も多いと思うので、頭の片隅に入れておいた方がよいかもしれない。

大地震が起きると、市街地のあちこちで火災が同時に発生する。火災の勢いは足し算ではなく掛け算で増していき、やがて巨大な炎の渦(火災合流)になっていく。さらに、炎の渦が巨大な炎の竜巻になったものを「火災旋風」と呼ぶ。

関東大震災の総死者数14万2千人のうち3万8千人は、地震発生の正午から3時間後のわずか10数分の間に、東京・本所の陸軍被服廠跡(読み方:りくぐんひふくしょうあと)にて、隅田川の上を「渡ってきた」火災旋風により絶命している。

東京大学大学院教授だった故・廣井脩氏による、被服廠での生存者インタビュー(被服廠跡地で生き残った人々)では、竜巻(火災旋風)で人が飛ぶのを見たという証言があるほど凄まじい勢いであった。

陸軍被服廠跡_火災旋風

引用:本所石原方面大旋風之真景,帝都大震災画報|Wikimedia Commons

火災旋風の逃げ方や対策は?

火災旋風が発生するのは既に火災が同時多発している状況なので、逃げるのは想像以上に難しくなるため、早めの避難を心がけたい。目安としては、少し遠く(500mほど先)に煙が2本以上立ち上がっていたら逃げること。

火災は風下に延焼するので、風上に逃げ、燃えている地域には決して近づかない。また、煙が発生していたら吸い込まないように、姿勢を低くして布で鼻と口を覆って避難することが大切だ。

まとめ

この記事ではほとんど紹介できなかったが、「日本沈没」漫画版では首都直下地震の恐怖をリアルなイラストで怖いほどに体感でき、地震対策をしておこうと気が引き締まる。第二次関東大震災を扱っている6巻は特に面白いが、日本が沈没するまでの全15巻、2022年10月時点ではKindle unlimitedの読み放題で読めるので、読み放題が終了する前に読んでおきたい。