ニャート

パニック障害で退職→ひきこもり→非正規雇用の氷河期世代。だめ人間が何とか日常を投げずに生きていくためのメモ書き。

非正規雇用の貧民が「アベノミクス死ね」と願った理由

私は、年収200万円台の派遣社員だ。
この金額では一人暮らしもできない。給料の半分を入れてはいるが、実家で暮らしている。

貧民の私が、なぜ「アベノミクス死ね」と願ったかを書く前に、日本の実質賃金の推移について述べたい。

実質賃金は90年代後半から下がり続けている

実質賃金指数の推移
(出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査」のデータをもとに筆者がグラフ作成)

グラフの通り、1992年の賃金を100とすると、日本の実質賃金は、2000年代からどんどん下がっている。
特に、アベノミクスの2013~2015年は、リーマンショックの余波を受けた2009年よりも低い。
なぜなら、物価が4%近く上昇したのに、名目賃金は1%程度しか上昇していないため、実質的には賃金は下がっているからだ。

つまり、平均的な労働者は、アベノミクスで豊かになるどころか、貧しくなっているのだ。

世界で後ろから数えるほど、日本の賃金は上がっていない

では、海外諸国では、賃金は上がっているのか。

GDP成長率に対する実質賃金の伸び率_1995-2000
GDP成長率に対する実質賃金の伸び率_2000-2007
(出典:"Global Wage Report"附表の数値をもとに筆者がグラフ作成)
※アメリカは、この資料に実質賃金の伸び率がないため除外
※2007年まではイギリスの伸び率は高いが、それ以降は、2007年の実質賃金指数を100とすると、2013年は92.9まで下がっている
このグラフは、上位順ではない。対象国が多いため、筆者が任意に選択

これは、GDP成長率に対して、実質賃金がどれだけ上がったかを示したグラフである(実質賃金の伸び率/GDP成長率)。
1995~2000年、2001~2007年のどちらの期間においても、実質賃金の伸び率がマイナスなのは、この中では日本だけだ。
中国はおろか、インドネシア・シンガポール・インド・タイよりも下である。
さらに言えば、74ヶ国中どちらの期間の数字もマイナスなのは、マルタ共和国・スロベニア・ペルー・バーレーン王国と日本だけだった。

つまり、世界規模でも後ろから数えた方がいいほど、日本の給料は上がっていないのである。

賃金を上げずに、内部留保を貯め込む大企業

では、アベノミクスはどこに還元されたのか。
それは大企業である。
アベノミクス期間で、大企業の内部留保は27兆円増えて過去最高を更新し、300兆円の大台に迫る勢いとなった。

それなら、内部留保を原資として、賃上げをすればいい。
実際に、国公労連が試算したところ、主要企業88社が内部留保の3%未満を取り崩せば、非正規を含めたすべての労働者において、月2万円の賃上げが可能だという。
だが、経団連は下記のようにきっぱりと拒絶している。

内部留保を原資とした賃上げ論があるが、そのような形での賃金引き上げを迫られれば、企業活動を支える有形固定資産やグループ会社の株式などを売却し、現金化して必要な資金を捻出せねばならない。それは結果として、企業の競争力や成長力の低下をもたらし、ひいては従業員の中長期的な処遇改善を阻害することにつながる。

全日本金属産業労働組合協議会「2015年闘争 交渉参考資料」

 

果たして、その考え方は正しいのか。
日本の上場会社において、時価総額に対し内部留保のうち現金及び現金同等物*が占める割合の平均値を算出したのが下記のグラフである。

内部留保の海外比較
(出典:Chie Aoyagi and Giovanni Ganelli "Unstash the Cash! Corporate Governance Reform in Japan”のデータをもとに筆者がグラフ作成)

他の先進国では15~25%の間に収まっているところ、日本だけ45%近くと突出している。
これを見れば、たった3%をなぜ賃上げに充てないのか、理解に苦しむ。

そもそも、アベノミクスがまだ始まる前の2012年の時点で、OECDはこう述べていた。

日本の労働分配率は過去 20 年間で大きく低下しており、これは大半のOECD加盟国よりも大幅な低下であった。1990 年から 2009 年までの間、OECD加盟国全体では労働分配率が 3.8%低下したのに対し、日本では 5.3%低下した。さらに、この傾向は所得格差の大幅な上昇とともに生じた。労働分配率全体が急速に低下した一方で、上位1%の高所得者が占める所得割合は増加した。結果として、労働分配率の低下は、上位1%の高所得者の所得を除けば、より一層大きなものとなるであろう。

OECD「雇用アウトルック2012」(※太字は筆者)

 

アベノミクスを経て、この状況は一層悪くなっている。

円安のデメリットだけが非正規労働者を直撃した

さらに、円安である。
アベノミクスは、金融緩和による株高円安誘導を進めてきた。
例えば、「クジラ」と呼ばれる、年金積立金管理運用独立行政法人などの公的マネーが円を売りまくり、円は2012年近辺につけた78円台から、2015年には125円台まで売られた。
(今回は述べないが、株高円安から再び株安円高になってどれだけ年金が減ったか、考えるだけで恐ろしい)

円安で輸出企業は大いに潤い、大企業の正社員の給与や賞与は上がったという。
だが、非正規労働者の賃金は上がっていない。

円安の仕組みを、簡単に説明する。
アメリカ人が1万ドル持っているとする。
1ドル=75円の時は、75万円にしかならないが、1ドル=125円の時は、125万円に換えられる。
また、日本人が、いくらかの円を1600ドルに換えたいとする。
1ドル=75円の時は、12万円で足りたが、1ドル=125円の時は、20万円必要になる。

乱暴に言うと、ドル円が75円から125円になったことで、手取り20万円の給料の価値が12万円にまで下がったことになる。

円安を受け、食料品などの生活必需品の物価が次々と上がった。
賃金が上がらない非正規労働者を、アベノミクスによる円安のデメリットだけが襲った。

アベノミクスの間、地域の派遣求人をずっと見ていたが、時給は1円も上がっていない。
昇給も賞与もない。それどころか、交通費も教育費も、健康診断代さえ自腹だ。
ドル円が120円台になった頃、社食でNHKのニュースが告げる為替レートを見ながら、私は「アベノミクス死ね」と願っていた。
社員は200円、派遣は500円の定食を食べながら。

「身分の違い」による経済格差を国が推し進める

貧民の私にとって、アベノミクスによる円安は、その前の不景気よりずっと辛かった。
アベノミクスが潤したのは、株を買える金持ちと、大企業と、その正社員だけだ。

周りは豊かになっていくのに、自分だけが前よりもっと貧しくなっていく。こんな恐怖はない。

日本の景気回復は、非正規労働者はカヤの外で進んでいくのだろう。
正規雇用と非正規雇用、「身分の違い」による経済格差を国が推し進めていく。

追記:*の部分が、正しくは「内部留保のうち現金及び現金同等物」のところ、私の入力ミスで「内部留保」になっておりました。
誠に申し訳ありません。ですが、結論は変わりません。

(この話は次回に続きます。次週は、現代の身分制度「派遣社員」の話です)

私が派遣社員になった理由:
非正規女性が見た「自己責任」で傷つけあう社会

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