ニャート

パニック障害で退職→ひきこもり→非正規雇用の氷河期世代。だめ人間が何とか日常を投げずに生きていくためのメモ書き。

産休・育休で「女の敵は女」を生み出す社会の構造

産休明けの社員が、同じ部署に戻れず、子供が発熱すると早退して保育園に迎えに行かなければいけないので、社内の雰囲気も悪くなり、結局1年もしないうちに退職した、という記事を読んだ。

産休明けの社員さんのこと

そうだ、保育園に入れないのも日本死ねだが、保育園に入れても日本死ねの状況になるのだと、友達から聞いた話を思い出した。

女性の活躍と福利厚生の充実を謳う会社の実態

友達の会社は、東証一部上場企業で、「女性が活躍でき、福利厚生が充実」との広報宣伝が功を奏して、一時期は「就職したいランキング」の上位に入ったこともある会社だ。
(なお、実際は激務でうつ病等での離職率が高いため、実態がネットで知られた今はランキング圏外となっている)

男女の比率は4:6で、男性は管理職に多いため、現場では若い女性が圧倒的に多い印象を受ける。
だが、一般的な大企業なら、40代・50代の女性も職場にいて、年を重ねた時にどのようなキャリアを積んでいるか参考にできるのだが、この会社は創業50年以上と歴史もあるのに、その年代の女性を友人は見たことがなかった。
これは男女ともにそうで、「35歳を超えたら窓際部署に送られる」という噂が公然と語られていた。

女性が多いが、部長以上の男女の割合は、体感的には9:1だった。
課長レベルならおそらく5:5だが、それ以上の昇進は「女としての全て(結婚や出産など)を捨てないと無理」と言われていた。
実際、30代女性の独身率は高く、体感的には独身:既婚は7:3の割合である(それ以上の年代は職場にいないため不明)。

その会社は、残業の多さで労働局から目をつけられていたため、名目上は21時に会社が閉まるが、仕事を持ち帰り(=サービス残業)自宅でやっている人が多かった。
フレックス制度はあるのだが、他の会社のようには自由に使えず(そのため使う人もなく)、出社時間は決まっていて朝礼もあった。

まとめると、若い女性が多く、みな激務で疲労している、だけど世間的(人事・広報的)には「福利厚生が充実していて、出産しても働ける」と謳われている、そんな会社での育休復帰後の話である。

育休復帰後の人事配置における問題

友人と同じ部署のAさん(以下敬称略)が、育休明けで復帰してきた時の話である。
その部署は全部で12人で、4人ごとのグループ×3で構成されている。
部署は会社の前線部署で、Aは復帰後も元のポジションに戻った。
この会社では、産休に加え育休も1年取ることができ、育休明けも大体同じ部署に戻れるため、制度的には非常に恵まれている。

グループの人員構成
  • グループリーダーB(30代前半女性・独身)
  • A(20代後半女性・既婚)
  • C(30代前半女性・独身)
  • D(20代後半男性・独身)

Aの産休・育休時には、その穴を埋めるためCが人事異動で配置になり、B+C+D+E(20代後半女性・独身)の4人配置だったが、Aの復帰によりEは他部署に異動し、補充はなかった。

つまり、Aの復帰後は、グループの人数は4人→4人で変わらないのだが、実際の戦力(ここでは労働に費やせる時間で定義)は落ちていることになる。

1日あたりのグループの労働時間総数
  • Aの復帰前:11時間×4人=44時間
    (1人あたり9時から21時まで働く前提→11時間)
  • Aの復帰後:11時間×3人+6時間=39時間
    (Aの労働時間:時短使用で9時から16時まで→6時間)

11時間と6時間、つまりAは戦力的には0.5人前だ。
4人グループだから4人前になるところが、3.5人前の労働力になっている。

この部署は3グループで構成され、他のグループには時短社員はいないので、4人前・4人前・3.5人前と、他のグループとの競争力の差も発生する。

だから、このポジションに育休復帰社員を2人配置するか、Aともう一人短時間労働者(パートさんなど)を配置するべきなのだが、この会社ではそのようにはならない。

そもそも、1人あたり11時間働く前提(実態から算出)が問題なのだが、これは後で触れる。

労働力減のひずみは人間関係に出る

人員補充がないので、Aが仕事をこなせない分の負担は、CとDが負担していた。

そもそも上記の計算も、Aが9時から16時まで最大限に働いた前提の上だが、実際はそうはいかない。
Aも、保育園初年度は毎週のように子供が熱を出して早退していた。
そうすると、ただでさえ0.5人前のところが、0.3~0.4人前になってしまう。

仕事を負担しているC・Dは、既にフルパワーで働いていて余裕がないところに、さらに仕事が降ってくる。
グループリーダーBも、C・Dには仕事を振るため煙たがれるし、Bの上司には他のグループと比べて仕事がこなせていないと叱責されて(BもBの上司も、人員補充を検討すべきなのになぜかそうならない)、ストレスがたまる。

人員配置の不備から来る不満は、原因であるAに直接ぶつけられた。
下記は、AがB・Cに言われたことである。

  • 「この会社で働きたいなら、結婚・出産するなんて考えが甘い」
  • 「仕事に専念できないなら退職して」(誤字修正しました)
  • 「なんでそんなに(子供の)熱が出るの。子育てちゃんとできてないんじゃないの。障害でもあるんじゃないの」
  • 「みんな、あなたに迷惑している」
  • 「働けていないんだから、基本給を減給するべき」
  • 「産休と育休を取ったことで会社からお金をもらっているのに、会社に貢献できないなら、そのお金を会社に返すべき」

完全なマタハラ(マタニティ・ハラスメント)である。
これは、同じ女性であるB・Cに言われたことだ。

不思議なことに、同じくAの仕事を負担していたD(独身男性)は、Aには不満はぶつけず、むしろ同情していた。
Dは「人事配置の問題なのに、Aさんがいじめられて気の毒。そういう女性同士の諍いを見ていると結婚したくなくなるし、嫁さんは専業主婦にさせたいけど、経済的には難しい」と言っていた。

友人が見た範囲内での話だが、この会社では、女性社員の出産には女性の方が手厳しかった。
出世する女性社員は皆独身で、「結婚・出産を犠牲にして働いてきた」という自負がある。
だから、出産した社員には「考えが甘い」という態度で接してしまうのではないか、そういういじめを見てしまうと、自分も結婚してはいけないという気持ちになってしまうと、友人は言っていた。

結局、Aさんはいじめに耐えられず、復帰後1年満たずで辞めてしまった。

この会社の問題点

この会社は、産前産後休暇+1年の育児休暇、復帰してからも時短勤務ができる点では、普通の中小企業と比べると圧倒的に恵まれている。

だが残念なことに、本来は育休復帰後の同僚の味方になるべき現場の社員が、その制度に賛同できていないのだ。

その原因は、労働の効率化という考えのもと、突然の発病や社会の一員として当然予想されるべき出産(出産しなければ最終的に国力は低下する)などが全く発生しないという前提で、人員が配置されていることにある。

さらに言えば、この部署では9時~21時まで働くことが当然とされている。
だが、人事配置における建前上ではどの社員も9時~17時までの労働で計算されているので、Aさんのような時短社員でも1日1時間減と計上され、建前上は人員を追加するという結論に至ることができない。
このような、建前と実態の差も、大きく影響している。

このように、本来は会社の問題なのに、そのひずみが、女性社員同士で「働くなら出産するな」という空気や精神論を作り出し、問題意識を会社に向けず社員同士で争っていると思うと、経営陣の思うツボである。

まとめ

この会社は、ある意味、安倍首相が謳う「SHINE!すべての女性が、輝く日本へ」を体現していると思う。

「福利厚生が充実し、女性が働きやすい会社」と広報して求人しているのに、いざ入ったら実態は全く違う。確かに制度はあるが、現場の意識と乖離している。
ならば初めから、「女性がバリバリ働ける会社(だが出世はできない)」と謳えばいいのに。Aさんも、「福利厚生が充実しているから、出産しても働ける」と思って入社した一人だった。

安倍政権も、女性が輝ける社会を謳っているが、口ばかりという印象だ。
保育園落ちた日本死ね!!!で言っていた通り、オリンピックのエンブレムにムダ金使うなら、なぜ少子化対策のため真剣に予算を使えないのか。

社会の余裕のなさゆえに、本来味方になるべく女性同士が敵になる社会構造は、女性が出産したくてもできない空気を作り出し、「SHINE(しね)!すべての女性が、いがみあう日本へ」を真剣に目指しているのかと思うほどである。

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