ニャート

パニック障害で退職→ひきこもり→非正規雇用の氷河期世代。だめ人間が何とか日常を投げずに生きていくためのメモ書き。

保育士の給料はなぜ安いのか #保育士辞めたの私だ

「保育園落ちた日本死ね!!!」から始まった保育園論争だが、Twitterで「#保育園落ちたの私だ」というハッシュタグで保育園に入れない実情を訴える人々とともに、「#保育士辞めたの私だ」タグを使い、保育士が薄給かつ劣悪な労働環境であると訴える動きが出てきた。

この記事では、保育士の給料はどのくらい安いのか、そしてその理由について、公務員とそれ以外の保育士との給与格差や、本来人件費に使うべき運営費の使い途などから考察する。

公務員とそれ以外の保育士との給与格差

保育園は、公営と私営に分かれている。
そのため保育士も、公務員(公立保育園の正規職員)と公務員以外(公立保育園の非正規職員、私立保育園などの正規・非正規職員)に分かれる。

公務員以外の保育士の給料について、厚生労働省の「平成27年賃金構造基本統計調査」を参照する。

職種別平均月収

保育士(公務員以外)の所定内給与は、約21万3,000円である。
(※所定内給与とは、定期給与から残業代などの所定外給与を除いたもの)

全産業の所定内給与は約30万4,000円で、9万近くも安い。
同じく低収入と言われる介護士よりも安いのだ。
ちなみに年収は、単純計算で323万3,400円となる。
(表には、総務省の2014年「地方公務員給与実態調査」から、地方公務員である「小・中学校(幼稚園)教育職」の平均月収も掲載)

上記の地方公務員調査には保育士の項目がないので、練馬区の保育士(公務員)を見てみる。

  • 平均月収:31万1,547円
  • 年間の手当支給額平均:165万2,834円
  • 年収平均:646万3,026円

公務員以外の保育士の、約2倍の年収だ。
練馬区 職員数や給与の状況(2015年度の公表内容)

公務員と公務員以外の保育士との給与格差は歴然である。


保育士(公務員以外)の月収分布図も見てみよう。
(同じく「賃金構造基本統計調査」より)

民間保育士の月収分布

これによると、最も多いのは月収18~19.9万円帯であり、月収30万円以上はほとんどいないことが分かる。

この金額は、手取りではない。
この金額からさらに、健康保険・介護保険・年金・税金が引かれるのだ。


今回の論争の前、2015年10月にも、職歴35年の主任保育士がTwitterで、手取り18万円という薄給を訴えたことがあった。

恥を承知で言いますが、保育士35年やり、今の民間保育園に勤めて25 年。主任やってます。給料手取りで(残業代少ない時、年金.介護保険.住民税等もろもろ引かれ)(主任手当3万円つき)18万円代。この金額、安すぎるでしょ!!と思う人、リツィートを!
shoko☆ (@nagai_shoko) 2015, 10月 24

このツイートは現在削除されているが、削除されるまでに17000回近くもリツイートされている。

さらに11月2日には、別の現役保育士が会見を行い、フルタイムで働いても、24歳2年目で手取り約11万4,000円、28歳6年目では約14万円という、絶望的な給料が明かされていた。
現役保育士の「衝撃給与」暴露相次ぐ 「命を預かる仕事」が手取り10万円台でいいのか? - エキサイトニュース

今回の「#保育士辞めたの私だ」タグでも、自らの収入をあえて晒し世の中への危機感を訴える人が出ている。

公立保育園で非正規雇用の保育士が増加

ここで、全国保育協議会の2011年度「全国の保育所実態調査報告書」(有効回収数8205件)を見てみよう。

非正規保育士の雇用割合

左2つが公営の保育園、右2つが私営の保育園において、非正規保育士がどれだけ雇用されているかを示している。

2011年度の平均は、公営では非正規保育士の割合が53.5%(保育士の半分が非正規)、私営では38.9%である。

公立・私立ともに、赤いエリア(=40%以上が非正規)がぐっと増え、5年前より非正規の割合が増加していることが見て分かる。

さらには、直接契約(=正規)の保育士の平均勤続年数は4.9年なのに対して、間接契約(=非正規)の平均勤続年数はたった1.4年である。

給料が安く、ハードワークで、非正規。
そんな状況で長く働く人などいないことを裏付けた数字であり、現在の保育士不足には確実に非正規割合の増加が影響していることが読み取れる。

立場上は正規の「任期付保育士」とは

公立保育園で薄給なのは、非正規保育士だけではない。

「任期付保育士 採用」で検索すると、各自治体の3年任期付の任期付保育士の募集が山ほど出てくる。主に、育休に入る正規職員の代替要員である。

正規職員と任期付保育士の待遇の違いを、大阪市の例で見てみよう。
下記は、大阪市の正規保育士(公務員)のデータ(2015年度)だ。

  • 平均年齢:46歳
  • 平均勤続年数:22年
  • 大卒10.4%/短大卒86%/高卒3.5%
  • 人員数:881名
  • 給料月額:321,159円
  • 手当合計:60,160円
  • 月収:381,319円
  • 期末手当:4.2ヶ月分(2015年度実績)
  • 年収(推定):5,924,695円

大阪市市政 平成27年職員の給与に関する報告及び勧告

2016年3月13日現在、大阪市では、「任期付保育士(1年11ヶ月・15名程度)」と「育休付任期付保育士(臨時職員3ヶ月+1年半・10名程度)」の2種類の求人が行われている。
給与は、このようになっている。

  • 給料月額:166,000円
  • 地域手当:24,900円
  • 月収:190,900円+各種手当(金額不明)
  • 期末手当:3.465ヶ月分(正規職員の82.5%)
  • 年収(推定):2,865,990円+各種手当

大阪市市政 【平成28年5月1日~平成30年3月31日】任期付職員(保育士)の募集
大阪市市政 【平成28年6月1日~平成30年3月31日 他】育休任期付職員(保育士)の募集
大阪市「一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する条例の一部を改正する条例案」

任期付職員とは、立場上は正規職員だが、雇用期間が限定された上、給与は公務員保育士の半分である。


だが実は、これでも大阪市では任期付保育士の給料を上げているのだ。

元々151,000円だった給与月額を、2014年に164,000円、2015年に166,000円に上げ、期末手当も2015年に正規職員の67.5%から82.5%に引き上げている。

姿勢は素晴らしいが、不安定な立場で正規職員の半分の給料では、やる気も出ない。感情的には、全産業平均月収(30万4,000円)まで給料を上げてほしいと思うが…。


さらに、これは私が聞いた話のためソースは立証できないが(大阪とは無関係)、1年間の臨時保育士として雇われ、1年後に解雇後、同じ職場で雇用形態を変えて6ヶ月間のパートとして再雇用、その後再び1年間の臨時契約、を何度も繰り返されている人もいるそうだ。

ネット上でも、「本来なら常勤で補充するところを、臨時保育士として求人を出し、ずっと臨時のまま働かされている」という話はよく出てくる。 真偽不明ではあるが、臨時保育士という不安定な立場で激務をこなしている人は多いとは思う。

保育園の収入は「公定価格」で決まっている

ここからは、「保育士の給料が安い理由」について考えていきたい。

保育士に給料を払うためには、保育園に収入がなければならない。
保育園の収入といえば、保護者が払う保育料を思い浮かべる人が多いだろう。

厚生労働省による2012年「地域児童福祉事業等調査」によると、1世帯における児童1人あたりの平均月額保育料は20,491円である。
保育料は、下記の要素によって、世帯ごとに金額が変わってくる。

  • 世帯年収(高収入なほど保育料は高い)
  • 子供の年齢(0歳児が最も高い)
  • 子供の人数(多いほど1人あたりは安い)
  • どの自治体に住んでいるか
  • どの保育園に通っているか(認可・認可外、認可でも公立・私立)

上記の「どの自治体に住んでいるか」だが、これは、市町村などの自治体が、保育園に補助金を出しているためだ。
例として、東京都板橋区の例を見てみよう。

板橋区の保育園補助金
保育園の運営費用負担割合と園児一人にかかる費用と保護者負担額 | 板橋区

0歳児では、園児1人にかかる費用が411,324円なのに対して、保護者は平均19,084円のみ支払えばよい。
残りの392,240円は、板橋区が補助金として出している。

このように、保育園の収入は「公費負担(補助金)+保護者負担(保育料)=公定価格」で成り立っている。
事業者の皆さまへ|よくある御質問 - 子ども・子育て支援新制度:政策統括官(共生社会政策担当) - 内閣府

公定価格の金額は決まっている=つまり、保育園の収入額は決まっており、あとは、その決まった金額を何にどう割り振るか、の問題になる。

税金から出た人件費が、違う用途に使われている

では、補助金は適切に人件費に充てられているのか。

一例として、横浜市内で、株式会社A社が経営する認可保育園のK園・T園の事例を見てみよう。

A社のK園では、2010年7月1日現在の常勤職員数は、14人。同年度の職員俸給(手当込)28,107,252円。次段に非常勤職員給与の科目があることから、この職員は常勤職員と思われる。
14人が一年間勤務というとした場合の常勤職員月給総額は、一人平均200万円となる。2011年度では、9月1日現在12人、職員俸給(同)23,890,379円 一人平均199万円
同社のT園は、2010年度 常勤職員数15人、職員俸給(同)31,416,159円、一人平均209万円。2011年度、常勤職員数12人、職員俸給(同)23,056,401円 一人平均192万円

決算資料から見えてきた株式会社立の認可保育園での保育所運営費使途の問題点について

下記は、K園の収支内訳である。

A社K園収支内訳

株式会社立の認可保育園での保育所運営費使途の問題点について記者発表
(※共産党の資料を引用しますが、私に特定の支持政党はありません)

青い部分が人件費で、38.5%だ。

赤い部分の20.2%の説明は、下記を見てほしい。

A社は、給食調理、英語・体操等講師派遣、研修、保育材料・食材納入を各々子会社に発注し、その総額は、T園、K園とも、2700万円前後である。ここで利益を出していることは、当局も認めている。

さらに、紫の部分19.7%を、他園に資金移動している。

K園の職員俸給は、1人平均199万円である。

赤い部分は、本来は人件費に振り分けるべきなのは明らかだろう。

他にも、C社が経営する、職員俸給1人平均192万円のT園は、2011年度に総額1億4百万円もの投資有価証券を取得

C社の課税所得は約2000万円で、事業収入1億円からすると暴利と言え、もっと人件費に振り分けるべきなのは言うまでもない。

児童数増加に対応する運営費が人件費に回らない理由

上記は横浜市に限らず、2012年10月には、会計検査院が全国の6500の保育所を調査したところ、724の保育所が運営費の30%超(105億)を使わずに保有していたため、厚労省に改善要求を出したことがあった。

全国福祉保育労働組合「保育所運営費に関する会計検査院報告に対する見解」

なぜ保育所は運営費を貯めこんでいるのか、その理由を上の資料から引用したいが、長いので要約する。

 運営費は必要最小限のため、適切な「運営」をしていれば余らない
→2000年の「新会計基準」導入から、「運営」から利益重視の「経営」に変化
→施設設備に必要な公費負担の仕組みが変化し、保育所負担が増加
→施設設備費を蓄えるため、積立前提の経理処理に変化
→2010年に保育所の定員上限が撤廃され、最低基準ぎりぎりまで児童を詰め込めるようになった(定員弾力化)
→規制緩和により、児童数増加に対して短時間勤務保育士で対応可能に
→結果、児童数増加に対する収入増を、常勤保育士増員に使わず、短時間勤務保育士で補い、余剰分を積立に回すように

現場では弾力運用による積立金等の確保を前提として、定期昇給停止一時金削減正規職員の非正規職員への置き換えなどによって人件費が抑制されている実態があることを指摘し続けてきた。

つまり、保育園は福祉施設ではなく利益を得るための施設に変化してきて、規制緩和で児童数を増やして収入(補助金)を得るが、必要な人件費は払わない、という構図が生まれてきているのだ。

思えば、認可保育園は中途半端な位置づけにある。

例えば飲食店などでは、利益を上げたければ、客数と客単価、稼働率を上げればよいが、認可保育園はそれができない。
定員(客数)と公定価格(客単価)は決まっているし、稼働率という概念はない。

結果、利益を得ようとすれば、経費(=人件費)を削るしかない、そのしわ寄せを現場で働く人たちが受けている状態なのである。

まとめ

ここまで考えてきたことをまとめたい。

  • 保育士(公務員以外)の所定内給与は月額約21万3,000円と、全職種平均より9万円安い
  • 保育士間の給与差、公務員とそれ以外で倍近く、同じ職種間で格差がある
  • 公立・私立ともに、非正規保育士の割合が増加
  • 公立保育園では、保育士の半分が非正規で、平均勤続年数は1.4年と短い
  • 非正規以外にも、任期付保育士や臨時保育士など不安定な立場の保育士は多い
  • 保育園の「経営」を重視するあまり、本来は人件費に回すべき運営費が、違う用途に使われている

では、保育士の給料はどうやったら上がるのか。

「#保育園落ちたの私だ」で語られる待機児童問題は、保育士不足が大きな一因だ。
そして、保育士不足の原因は、保育士の給料が安く、雇用が不安定なためというのは、2014年度「東京都保育士実態調査」が裏づけている。

上記での保育士の退職理由の上位2位は「妊娠・出産」(25.7%)「給料が安い」(25.5%)である。非正規などの不安定な雇用では、産休・育休など取れないため、妊娠したら辞めるしかない。

解決策としては、公定価格、すなわち補助単価を上げることです。国は1兆円強の予算を投入すると決めたにも関わらず、財源確保ができず、4000億円が足りないまま、7000億円の水準にとどまってます。これでは保育士給与の大幅な引き上げは難しいのです。

ちなみに軽減税率の財源の方の4000億は、福祉予算を削ってでも捻出される予定です。皆さん、政策の優先順位、これで正しいと思いますか?

保育士の給与はなぜ安いか | 駒崎弘樹公式サイト:病児・障害児・小規模保育のNPOフローレンス代表

なお、待機児童問題が最も深刻なのは、東京である。
東京都の舛添知事は、5回の海外出張費に2億4,000万を計上し、2014年には1泊15万8,000円のホテルに宿泊している。非難された号泣議員のカラ出張と何が違うのか。

足りない4000億に比べたら微々たるものだが、小さい(と言っても2億だが)金額からコツコツと、適切な使い途に充てるべきではないだろうか。
舛添知事「海外出張費」昨年は総額1億5千万円 1泊「15万8000円」条例“上限”超過も…「五輪成功のため外交当然」

血税は、使うべきところ、日本を支える人たちの憂いを失くすために使ってほしい。

(3月21日追記:保育園の人件費率は特殊なのですが、他業種と比べて混乱する方がいたので、その記述を削り、該当箇所の表現を修正しました)