「働き方法案」の採決が5月31日に先送りされることになった。
法案見送りを祈って、焦点である「高度プロフェッショナル制度」の問題点を、最初からざっくりまとめたい。
「働き方改革」関連法案とは
そもそも、「働き方改革」とは何を目指しているのか。
「働き方改革」関連法案概要|厚生労働省(以下、ここから箇条書き・引用)
「働き方改革」関連法案は主に、
- A:長時間労働の是正
- B:多様で柔軟な働き方の実現
- C:雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
を目的としている。
「高度プロフェッショナル制度」は、Bの中でも「1.労働時間に関する制度の見直し」に属し、実行項目は下記である。
- 時間外労働の上限を設定(月45時間・年360時間。特別な場合でも単月100時間未満・複数月平均80時間・年720時間)
- 月60時間以上の時間外労働の割増賃金率について、中小企業への猶予措置を廃止。年次有給休暇10日のうち、5日は時季を指定して与えなければならない
- 高度プロフェッショナル制度の創設
- 労働時間の状況を省令で定める方法により把握しなければならない
本来、「働き方改革」関連法案は、「長時間労働の是正」を目指すものである。
しかし、片方では「時間外労働の上限」を設定しつつ、片方では超長時間労働につながる「高度プロフェッショナル制度」を創設しているという矛盾がある。
「高度プロフェッショナル制度」とは
「高度プロフェッショナル制度」とは、専門業務を行う年収1,075万円以上の労働者に、年間104日(かつ月4日)の休日さえ取らせれば、定額で残業させ放題の制度だ。
②特定高度専門業務・成果型労働性(高度プロフェッショナル制度)の創設
・職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、高度の専門知識を必要とする等の業務に従事する場合に、年間104日の休日を確実に取得させること等の健康確保措置を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。
4週のうち4日の休日義務さえも、4週最後の4日間に設定すれば、24日連続24時間勤務(休憩なし)が合法となる。
「休憩」「残業」「休日出勤」「夜勤」という概念自体が存在しなくなり、「残業代」がゼロになる。
「専門職・高年収じゃないから関係ない」と思った方、対象業務は拡大でき、年収は357万円程度まで下げることが可能である。
対象業務は、国会の議論がなくとも拡大できる
高度プロフェッショナル制度の対象業務は下記になる。
(一)高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務。
専門業務となってはいるが、「厚生労働省令で定める業務」とあるため、国会の議論を経ずに範囲が拡大される可能性がある。
1986年施行の「労働者派遣法」も、当初は、直接雇用の労働者が派遣社員に置き換えられないように、専門的な13業務に限って派遣を認めていた。
しかし、99年の「対象業務の原則自由化」と04年の「製造派遣解禁」によって、現在では労働者の4割以上が非正規雇用という惨状になっている。
このように、高プロもなし崩し的に対象業務や対象年収が拡大していくのが、今から目に見えるようだ。
年収要件は357万円まで下げられる
「高プロ制度は地獄の入り口 ~ High-pro systm is the gate to hell~」によると、高プロは年収357万円くらいの労働者にも適用できるとある。
年収を1075万円に設定し、契約上、働かなければならない時間を6264時間{(365日ー休日104日)×24時間}にする。
時給は、1075万円÷6264時間=1716円となる。
人間は24時間働けないから、休むごとに1時間あたり1716円、給料から減額されていく。
最終的には、労働基準法の労働時間規制(1週間40時間まで)にひっかからない年間労働時間数は、365日÷7日×40時間=2085時間となり、これに時給1716円をかけると、年収357万7860円となるのだ。
2005年、経団連は年収要件を400万円以上で提案していた
2005年6月に既に、経団連は「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」の中で、「ホワイトカラーエグゼンプション制度」の新設を低減し、その賃金要件を
当該年における年収の額が400万円(又は全労働者の平均給与所得)以上であること。
としていた。
このことからも、年収375万円程度があり得ない未来ではないことが推測される。
「健康確保措置」は健康診断のみで可
超長時間労働を招きかねない高プロは、労働者の健康確保をどのように考えているのか。
こんなひどい制度の高プロなので「労働者が死んじゃうかも!」とでも思ったのか、独自の健康確保措置があります。
そのメニューは、
- 1 勤務間インターバル制度と深夜労働の回数制限制度の導入
- 2 労働時間を1ヵ月又は3ヵ月の期間で一定時間内とする
- 3 1年に1回以上継続した2週間の休日を与える
- 4 時間外労働が80時間を超えたら健康診断を実施する
です(※)。
「お!いいじゃん!」と思うかもしれませんが、この中から1個選べばいいという制度です。
で、普通に考えると4を選ぶ企業が続出するでしょうね。
一番負担がないですからね。
※法案では「労働時間」という言葉は使われず「健康管理時間」という言葉を使っています。
「高プロ制度の解説をします(佐々木亮氏)|YAHOOニュース」より引用
2005年、経団連は深夜労働割増賃金の除外を提案していた
さらには、経団連は「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」の中で、2005年時点で既に「深夜労働の割増賃金の除外」を提案していた。
他方、経済のグローバル化や24時間化が一層の進展を見せる中で、海外とのやりとりをはじめとして、重要な職務や責任を有するこれら管理監督者が深夜に活動しなければならない状況は数多く想定される。
(中略)
以上のことから、管理監督者については、早急に深夜労働についても割増賃金規制の適用が除外されることを明確にするよう、必要な法改正を行うべきである。
深夜労働が、健康・家庭・生活の不活性など様々な弊害を伴うことは周知の事実だと思っていたが、経団連においてはそういう認識ではないことに衝撃を受けた。
最新の研究によれば、深夜交替制労働が心血管疾患の高い危険因子であるとする研究が多数を占めるに至っていると指摘されている。したがって、すでに今日、八〇年代前半までとは違った医学的認識の段階に到達しており、それは深夜交替制労働と疾病との強い関連性、とくに過労死という深刻な結果につながる心疾患などとの関連を明確にしているといえる。
1996年時点でさえ、深夜交代制労働が病気、とくに過労死につながる心疾患に関連があるとする研究が多数を占めていたというのに。
働き方法案をとにかく成立させたい経団連
裁量労働性を巡るデータ誤用問題があったにもかかわらず、経団連は「働き方改革」関連法案を「今国会中に成立させてほしい」と何度も訴え続けてきた。
データ誤用、再調査促す=働き方法案の成立訴えー榊原経団連会長|時事ドットコムニュース
働き方法案成立「早急に」 経団連会長 |日本経済新聞
過労死遺族との面会を拒む安倍首相
「休憩」「残業」「休日出勤」「夜勤」という概念がなくなり、さらなる過労死を助長する高度プロフェッショナル制度の法案成立を控えて、安倍首相は高プロに反対する過労死遺族らによる面会要求を、再度拒否した。
ロシアで、ザギトワ選手への秋田犬贈呈に立ち会う時間はあったのに。
首相、過労死遺族面会改めて拒否|共同通信
ザギトワ選手に秋田犬「マサル」贈呈、安倍首相夫妻も立会い|ロイター
最後に
経団連の意向と過労死遺族への対応を見れば、政府が誰の方を向いているかは明らかだろう。
「働き方改革」の目的である「長時間労働の是正」とは、過労死などを防ぎ労働者の健康を確保するためだと、私は思っていた。
しかし、政府が本当に目指しているのは、高プロによって「長時間労働」という概念自体を無くすことで、「過労死」という概念も無くし、長時間労働によって健康を損ねる人をすべて「自己責任」化することではないのか。
もっと言うと、「(賃金を払う)長時間労働」を「(賃金を払わなくてよい)労働」に「是正」することが目的ではないのか。
そうでないのなら、これほど欠陥が多い「高度プロフェッショナル制度」は撤回するべきだ。
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