このブログは労働問題を扱っているので、高度プロフェッショナル制度についても何か書くべきだとは思っていたが、「どうせ採決されるんでしょ」と投げやりな気分になって、あまり書く気にならなかった。
政治には何も期待できない。
与党は5月29日に衆院を通過させ参院に送付、6月20日までの成立を目指しているようなので、非力な労働者は高プロ成立後にどうしたらよいのかを考えてみたい。
新卒は空前の売り手市場
さて、2018年3月卒の大卒就職率は、2018年4月1日現在で98.0%と、調査を始めた1997年以来、過去最高となった。
大卒就職率、過去最高98% 高卒も27年ぶり高水準|朝日新聞DIGITAL
内訳を見ると、従業員数5000人以上の企業では大卒就職率は0.39倍なのに対し、300人未満の中小企業では6倍以上となっている。
また、業種別でも金融業は0.19倍だが、流通業や建設業では10倍前後と大きな開きが出ている。
つまり、人気企業や業種に就くのは今でも大変だが、中小企業や不人気業種は人手不足、という二極化になっている。
大卒求人倍率「二極化で絶望」の中小企業|PRESIDENT Online
ブラック企業は淘汰される時代がやってきたのだ。
20代は今こそ仕事を選ぶ時
売り手市場の中、入社4日目に退社する新卒も出てきている。
首都圏の中堅私立大学卒のAさんは、大学4年の秋まで就活しなかったが、母親に泣きつかれてとりあえず受けた社員30人の不動産関連会社でいきなり内定が出た。
だが、業務はテレアポであり、実際に電話をかけてみた入社3日目に退職を決意し、4日目のお昼前には会社を去った。
就職難で、就職できるならどんな長時間労働やハラスメントも我慢せざるを得なかった氷河期世代は、Aさんには共感できないだろう。怒りすら感じるかもしれない。
働くことについて何も考えないまま、適当に就活し、適当に退職したという感想しか浮かばないかもしれない。
しかし、その感想は「経営者寄り」だと思う。
「労働者寄り」の視点からは、「テレアポなんて無意味な業務、心と体を壊す前に辞めてグッジョブ!」という感想が出てきてもよい事例だ。
超売り手市場の20代前半が、良い意味で仕事を「選り好み」し、そのことを世論が「経営者寄り」な視点から否定しないことこそ、高プロのような殺人法案を通そうとする経団連への対抗と思われる。
目には目を、歯には歯を、だ。
実際、不動産のテレアポ業務など、この世からなくなった方がよい。
そういった業務に就く人がいなくなって、待遇が改善されるか、業務自体がなくなるかして、自然淘汰されることを願いたい。
高度プロフェッショナル制度により、過労死認定が困難となる
「高度プロフェッショナル制度がもたらす地獄絵図=48日間連続の休憩なし24時間労働が合法」によると、「健康確保措置」として義務づけられる年104日と有給5日以外は、休憩なしの24時間労働でも合法となるらしい。
しかも、健康確保措置を確保しているかどうかは、高プロ導入の半年後、労働基準監督署に1度だけ報告すればよいのだ。
さらに、「高プロ制度は地獄の入り口 ~ High-pro systm is the gate to hell~」によると、高プロは年収357万円くらいの労働者にも適用できるとある。
年収を1075万円に設定し、契約上、働かなければならない時間を6264時間{(365日ー休日104日)×24時間}にする。
時給は、1075万円÷6264時間=1716円となる。
人間は24時間働けないから、休むごとに1時間あたり1716円、給料から減額されていく。
最終的には、労働基準法の労働時間規制(1週間40時間まで)にひっかからない年間労働時間数は、365日÷7日×40時間=2085時間となり、これに時給1716円をかけると、年収357万7860円となるのだ。
こんなメチャクチャなことが許される高プロによって、過労死の認定は今よりも困難となるだろう。
思えば、電通の高橋まつりさんが長時間労働(とおそらくハラスメント)によって自殺した件は、良い意味でも悪い意味でもターニングポイントだったのだろう。
あれで、過労死が通常より注目された結果、経団連が(撤回された裁量労働制と)高度プロフェッショナル制度をどうしても通したいという事態になったのだろうから。
高プロ成立後は「とりあえず3年」が命とりになる
高プロ法案成立後は、現在の常識「とりあえず3年」は非常識に変わるだろう。
高橋まつりさんは、1年とたたずに亡くなってしまった。
高プロのような殺人法案成立後は、ブラック企業で3年も我慢することは死につながる。
就活時には企業研究をして、ブラック企業は避けてほしい。
不幸にも、入社後にブラック企業だと分かったら、すぐに転職してほしい。
氷河期世代が泣いてうらやむ、空前の売り手市場を約束された20代の雇用が流動化した結果、ますます人手不足になり労働者の待遇が改善されていくことを願う。
また、4月18日には、東京駅構内の自販機に続々と「売り切れ」が発生する(=補充されない)事態が起こった。
これは、ジャパンビバレッジで働く、ブラック企業ユニオンの組合員が、残業代未払いや組合員の懲戒処分に対して、残業ゼロ・休憩1時間の「順法闘争」で闘っていたからだ。
高プロ法案の成立阻止は難しいだろう。政治には何も期待できない。
それなら、人手不足を味方につけて、ブラック企業には労働者がNOを突きつけるしかないのだ。
↑ 高年収の人たちだけの問題ではない、私たちは意図的に分断されている。