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ニャート

旧「一橋を出てニートになりました」。出版社を過労で退職→引きこもり→派遣社員を経て、働き方や社会のあり方について思うことを書いています。

東大女子を過労死させたり、京大専業主婦をもったいなくさせているのは日本社会

電通の高橋まつりさん(東大卒)が、たった1年足らずで過労自殺したニュースが話題となった。

私も長時間労働による過労で出版社を辞めており、まつりさんほどではないがパワハラとセクハラの実体験がある。
だが、今日はそのことを書くよりも、もっと大きい視点から「高学歴女性が過労死や専業主婦を選んでしまう日本社会の問題点」について書きたい。

子どもに学歴をつけたいと願う親

まつりさんのお母さんは、離婚後に女手一つでまつりさんを育て上げた。
まつりさんも、その気持ちに応えて、地方の高校から猛勉強して東大に入った。

まつりさんとお母さんの関係は、私と母のそれに似ている。

私の母は、本当の母を小さい頃に亡くし、継母に育てられている。
いわゆる継子いじめを受け、とても苦労してきた。
結婚して幸せになれるかと思いきや、私の父は若い頃、いわゆる飲む打つ揃った横暴な男だった。
父を悪く言いたくないが、この話をする上では避けて通れない。
(父も今ではだいぶ丸くなり、一時期は引きこもった私を受けとめてくれた。昔の父から思えば画期的なことで感謝している)

母は離婚も考えたが、実家にも帰れず経済力もないため、私と妹のために我慢していた。
母は、自分に学歴と経済力がないことを嘆いて、子どもは大学に行かせたいと必死で働いた。

私は、そんな母をずっと見てきた。
私には、勉強しないという選択肢はなかった。
いい大学に行って、お金を稼いで、母を楽にしたかった。

田舎に住んでいたので、高校は、片道2時間かかる公立の進学校に頑張って通った。
私は地頭が悪い。だから、高校生活のほとんどを通学と勉強に費やしたが、幸い一橋大学に受かることができた。

私の母のように、自らが苦労したからこそ、子どもには学歴をつけさせたいと願う親はたくさんいるだろう。
その結果、私のように地頭が悪い子どもは、膨大な時間を受験勉強に捧げることになる。
だが、大学卒業後に企業から求められるものは、受験勉強とは全く違うものだ。

綺麗ごとで惑わせ、自発的な奴隷を求める、時代遅れの日本企業

まつりさんや私が目指したマスコミ業界は、長時間労働から免れることはできない。
本当に不思議なのだが、時代の最先端を作り出すはずのマスコミ業界には、効率や生産性という観点はなく、働き方は時代遅れだ。

電通の行動規範「鬼十則」は、1951年に作られ、今なお守られている。バブルどころか戦後である。
その中に、「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。」とある。戦後どころか戦時中だ。
まつりさんは鬼十則を守って、特攻隊のように死んでしまった。
こんな化石のような会社が、マスコミいや日本の中心に鎮座しているのだ。

電通のような企業が社員に求めるものは、戦時中に大本営が国民に求めたものと同じである。
「体力」「気力」「忍耐力」「奴隷としての従属性」だ。知力はいらない。
長時間労働やパワハラ・セクハラをものともせず、クライアントや上司には絶対服従、無理難題も気合いで押し切る社員が、「優秀」とされる。

もう一つ、日本企業には問題点がある。
本音を隠して、建前上は綺麗ごとを装い、裏では違法だろうがやりたい放題の点だ。

奴隷が欲しいなら、募集要項に書けばいい。「体力がない奴、逆らう奴はいりません」と。
でも、そんなことはしない。

このように、「最高の答え」「諦めない」「プライド」といった綺麗な言葉で、法律上はどう見ても長時間労働の激務なのに、「お前が激務じゃないと思えば激務ではない」と問題をすり替え、自発的な奴隷になるよう促している。
自らが奴隷であることに気づかせないための、「やりがい」「プライド」「仕事は楽しい」なのだ。

だから皆、綺麗な言葉にだまされてしまう。
特に、私やまつりさんのような、コネもなく「努力」だけで地方からのし上がった無邪気な学生は、「やりがい」のためには長時間労働という「努力」が必要なのだと思い込んでしまう。
コネがないから、真実を教えてくれる人もいない。
そして、努力だけではどうにもならなくなった時、自分を責めて潰れてしまう。

学歴と、企業が求める奴隷適性との間のミスマッチ

自らに学歴がないため、子どもには学歴をつけさせたいと願う親は、学歴は万能だと信じている。
しかし、受験エリートであることと、電通のような企業でサバイブするのに必要なこととの間には、何の関連もない。

まつりさんは、社会に出てたった1年足らずで亡くなってしまった。
私は、7年ぐらいは出版社で働けたものの、過労でパニック障害になった後はずっと非正規雇用の人生である。

受験勉強に費やした、親子のあの徒労は、何のためだったのだろうか。
むしろ、受験勉強に費やした時間を、ブラック企業対策として体育会系の運動部での体力増強や、恋愛やおしゃれをして結婚相手を探すことに費やした方が、よほど有益だったのかもしれない。

過労で倒れる人のことを、「弱くて無能な者が淘汰される競争原理が働いただけ」と切り捨てる人もいるだろう。
だが思う。

ドイツのように長時間労働が厳しく制裁される社会なら、仮に弱くても、その罰として、それまでの努力やその後の人生まで全部吹き飛ぶようなブラック企業を引き当てることはなかったのだと。

週40時間労働が当たり前な社会なら、まつりさんも私も過労で倒れることはなく、結婚しても子どもを産んでも定年まで働き続けられたのだと。

京大専業主婦をもったいなくさせているのは日本企業

5月に「『京大出て専業主婦なんてもったいない』と言う人は、じゃあわたしが何をすれば許してくれるのか」という記事が、はてなで話題になった(ブログは消えてしまった)。
その時は、「京大などの国立大には国家予算が使われているので、働くことで社会に還元すべき」という意見が多く見られた。
私はこのことに違和感を感じ、この問題をずっと考え続けていた。そして今、こう思う。

京大専業主婦をもったいなくさせているのは、彼女自身ではなく、日本社会なのだと。

日本総研の「東京圏で暮らす高学歴女性の働き方等に関するアンケート調査」(2015年)によると、偏差値60~70台の大学を卒業した女性においてさえ、正規雇用の割合は48.3%しかない。

高学歴女性の就業形態

当然ながら、同じ偏差値の男性においては、こんな値は出ない。
出産で一時的に仕事を辞めるからという意見もあるだろうが、高学歴女性ならば、出産してもずっと仕事を続けられる環境を手に入れているのかと思えば、そうではなかった。

これは、私の感覚とも一致する。
知り合いの高学歴女性において、専業主婦の割合はかなり高い。
大学卒業後ずっと働き続けているのは、公務員で育休が3年取れるなどの恵まれた環境だったり、弁護士などの資格職だったり、自分の裁量で仕事量をコントロールできる人に多い。
まつりさんや私のように、就職活動時に、最も重要なのはハードな職場を避けることと気づけなかった人は、みな途中で会社を辞めて、専業主婦や非正規雇用に移っている(私の世代が氷河期世代だったことも深く関係している)。

これで喜ぶのは、世界的水準で見ても高い教育を受けている日本女性を、非正規で安くこき使える企業だ。
派遣・パートなどの非正規雇用の時給には、学歴は全く反映されない。
若い女性を多く雇用している会社の人事が、「若い女性はよく働くのに人件費が安く、途中で勝手に辞めてくれて、もっと若い女性と交換できるので便利」と言っているのを聞いたこともある。

企業が女性を求めるのは、子どもを産む前の、若く綺麗で体力があり、安く使える時期だけだ。
若くなくなってからは、産休・育休や時短勤務などの手間や、昇給などのコストをかけずに、都合がいい時に非正規で使い捨てたいだけなのだ。

私には、手段としての学歴はいらなかった

10月初めに、妹に子どもが生まれた。
私が、過去記事で切望していた子どもだ。
母はずっと孫を欲しがっていたが、私がパニック障害になってから、そうした気持ちを伝えてくることはなかった。
私は、病気は寛解したが完治はせず、何年も薬を飲んでいて、出産や育児に耐えられるだけの体力・気力がないため、子どもを持つことをあきらめている。

生まれたての赤ちゃんの、ふかふかのほっぺや、可愛い舌がのぞく半開きのくちびる、寝息に合わせてぽこぽこと上下するおなかを見ていたら、こんな愛らしい存在を母に見せてあげられないだろう自分に、涙がこぼれた。

私に学歴は必要なかった。
受験勉強などせず、自分の能力に見合った学校に進んで、そこそこ働いて、20代で結婚して、子どもを産みたかった。

だけど、その選択肢だと、結婚相手を間違えれば、母の二の舞になってしまう。
それが嫌で、自立するために学歴を手に入れたのに、使いこなせないまま他のものまで失った。
結局、手段としての学歴は万能ではなく、私は階級を抜け出せなかった。

私と母は、どうするのが正解だったのだろうか。
女の子を持つ親は、何を目指して我が子を育てればいいのだろうか。

(ここまで、成り上がりの手段としての学歴を否定してきたが、女性にとって勉強は、自分の考えや世界を広げるために必要だと思っている。迷っている私に解決策と救いを与えてくれるのは、勉強だろうとも思っている。私は、いつかお金ができたらもう一度、母校の大学3年生に編入したい。その時こそ、本来の「勉強」の意味を、私は知るのだろう)

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