ニャート

パニック障害で退職→ひきこもり→非正規雇用の氷河期世代。だめ人間が何とか日常を投げずに生きていくためのメモ書き。

子どもがひきこもりなら、親が殺してもよいという風潮が怖い

元事務次官がひきこもりの長男を殺害した事件で、容疑者の供述が出てきている。

長男が事件直前、運動会中の児童らについて「ぶっ殺す」と発言していた

川崎市で児童ら20人が殺傷された事件に触れ、「長男が危害を加えてはいけないと思った」との内容の説明をしている

「児童ぶっ殺す」と長男 元次官、川崎殺傷よぎり殺害か:朝日新聞デジタル

私が怖いのは、「長男が本当に「ぶっ殺す」と言ったのか、この供述を疑う人がだれもいない」点だ。

殺された長男が実はこうした発言をしておらず、親である容疑者が「川崎の事件が起こった今なら、同情してもらえるから殺害しよう」と思った可能性があるのに。


さらに、殺された長男の熊澤さんはひきこもりと報道され、両親とずっと暮らしていたように思われているが、実際には、実家に帰ってきたのは事件の約1週間前だ。

長男は高校に進学しましたが、その後、両親とは別々に都内の別の場所で暮らしていたということです。
長男が、ふたたび練馬区の住宅で両親と暮らすようになったのは、事件のおよそ1週間前となる、先月下旬。
突然、電話で「実家に帰りたい」と言ってきたということです。
その理由はわかっていませんが、捜査関係者によりますと、当時住んでいた都内の別の場所でごみの出し方などをめぐって近所の住民とトラブルになっていたということです。

暴力は中学から「身の危険」供述|NHK 首都圏のニュース

私が恐ろしいと思ったのは、この記述だ。

刺し傷が10か所以上で、腹や胸に集中していることから、かなりの覚悟を持っての犯行のようだ

引きこもり長男を10か所以上、刺す 元事務次官「川崎のような事件を起こしたら…」と供述〈週刊朝日〉(AERA dot.) - Yahoo!ニュース

高校を卒業してからずっと別々に暮らしており、実際に暮らしたのは1週間ほど。
中学時代に家庭内暴力があり、一人暮らしのための生活費を(おそらく)出していただろうから、精神的負担は大きかっただろう。

それでも、1週間しか暮らしていないのに10ヶ所以上刺し殺しているのだから、犯行への覚悟というより、「お荷物だから殺したい」という強い憎悪を感じる。


引用した「かなりの覚悟を持っての犯行」は、捜査関係者の発言だ。
この「覚悟」を賞賛している人たちがいる。

無職の息子を殺害した元事務次官父は親としての責任を果たしたのか - Togetter

いや農水省元事務次官に対しては「良くやった」以外ないでしょ。 家庭内暴..

わざわざリンクを貼るまでもなく、こうした賞賛は無数にある。
「製造者(物)責任」という製造業で使われる単語を用いて、社会に適合できていない子どもを親が「責任をもって」殺害することを良しとする人たちがいる。

繰り返すが、殺された長男の熊澤さんが、小学校の運動会がうるさいからぶっ殺すと言った確証はない。
もし言ったとしても、文句を言うのと実際に行動を起こすのとでは、相当な開きがある。

長男の熊澤さんはオンラインゲーム上の有名人だったため、twitterでの少々問題ある発言を紹介され、「こんな人なら殺されて当然」と思われるように世論が誘導されている。

しかし、多少問題ある人物だったとしても、私が見た感じ、父親の名前を自慢しているところに可愛げ(幼さ)を感じる。父親を頼りにしていたんだろうなと。
父親に問題を解決してもらうなど小心者なところがあって、小学校での無差別殺人を起こすような度胸(よい意味ではない)があるようには思えない。
頼りにしていた父親に10ヶ所以上も刺されて殺されるとは、絶望感はいかほどだったろうか。

川崎無差別殺傷事件とこの事件を契機に、「製造者責任」の名のもと、ひきこもりや精神障害など、何らかの問題を抱えた子どもを親が殺すことを「許容」むしろ「賞賛」する風潮に、スイッチが切り替わったように思えて怖い。

今までもそうした傾向はあったが、マスコミやネット上で、一斉にこうした(いわば)「キャンペーン」が実施されたのは初めてのように思う。

特に、マスコミの報道は、ひきこもりなどの子どもを持つ親に対して、マスコミだから調査可能な解決法の提示を与えず、ただいたずらに煽るだけだ。
実際、川崎の事件に影響されて、この事件が起こったのだから。

「社会のお荷物は一人で死ね」という発想は、少子高齢化と日本経済の斜陽化が背景にある。
少子高齢化のため、若者は足りないが、40代以上は大量に「余っている」。
日本は高齢者の介護問題を抱えており、社会福祉費を出せるだけの余裕が既にないことから、「社会のお荷物になる高齢者や、傷病者(長谷川豊氏の炎上の件など)は早く死ね」という土壌が徐々にできてきたように思う。

今回、「お荷物」の範囲が、介護や治療などで社会福祉を圧迫する層から、社会福祉を圧迫するのではないかと「根拠なく予想される」層へと一気に広がった感がある。

こうした考え方の延長にあるのは、2016年に植松氏が起こした相模原障害者施設殺傷事件だ。さらに進むと、「ユダヤ人は人種的に劣っている」と主張したナチスにつながる。

40代以上が問題とされるのは、いったんレールを外れると再起が難しい日本では、40代から新しい人生が開ける可能性を、だれもが信じられないからだ。
もし、ひきこもりからの就労がたやすい日本なら、長男の熊澤氏も殺されることはなかったのではないか。

(それでは、マスコミはどういった報道をするのが望ましいのかは、長くなるのでまた次回)

ひきこもりを殺さないで - ニャート