ニャート

旧「一橋を出てニートになりました」。出版社を過労で退職→引きこもり→派遣社員を経て、社会のあり方について思うことを書いています。

ひきこもり就労支援をビジネスとして成立させる難しさ

「ひきこもりながら働こう|NHK NEWS WEB」の記事を読んだとき、私は舞い上がってしまいました。

私は以前から、

「例えば、Webサイト・システム制作などの仕事を受注して、精神疾患を抱えた人やひきこもりの人などで作業を分け合う仕組みができたらいいのに」

と思っており、記事中の「株式会社ウチらめっちゃ細かいんで」(略称めちゃこま)は、まさに私の理想モデルを体現した会社だったからです。

「もうもう、今すぐここに職務経歴書を送らなきゃ! あwせdrftgyふじこlpあばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば(めちゃこまのサイトを開く)ばばばばばばばばばば………………………………はにゃ?」

しかし、サイトを読むと少しひっかかるところがあり、「ひきこもり就労支援」を利益が出る「ビジネス」として成立させるのはやはり難しいのだなと感じました。

この記事は、「株式会社ウチらめっちゃ細かいんで」「フロンティアリンク株式会社」を批判する趣旨ではなく、「ひきこもり就労支援」のあり方について皆さんの意見を聞きたくて書いたものであることを、最初にお断りしておきます。

「株式会社ウチらめっちゃ細かいんで」とは

「株式会社ウチらめっちゃ細かいんで」は、下記のような会社です。

  • 2017年12月に設立された、株式会社では日本初の「ひきこもり当事者・元当事者主体」の事業体
  • 「1日速習」講座などのビジネス研修を手がける「フロンティアリンク株式会社」の社長(佐藤啓氏)が、社長を兼任
  • 佐藤氏は、ひきこもり当事者・元当事者ではない
  • めちゃこまの社員10人は、皆ひきこもり当事者・元当事者

冒頭記事にある、

その日の体調をチャットサービスで会社に知らせ、自宅のパソコンでリモートワークできる

という働き方が、めちゃこま社員10人においては完全に適用されているだろうことについては絶賛します。

ひきこもりが「めちゃこま」で働きたかったら、どうすればよい?

ただし気になるのは、ひきこもりの人が「この会社で働きたい」と思ったときにどうなるのか、ということです。

質問:「めちゃコマ」で働きたいという、ひきこもり当事者がおられたら、応募すれば働けるような仕組みがあるのでしょうか。

佐藤:何段階かの働く仕組みを用意しており、「サポーター会員、ボランティア、業務委託、アルバイト、正社員」の5つのステップで考えています。

一番ハードルが低いのが「サポーター会員」ですね。会員には、ご希望に応じて名刺をお渡しいたしますので、色々な活動を行えます。

その後はボランティア的に一緒に入っていただく形ですね。私たちは、ボランティアはすごく大事だと思っていまして、ひきこもり当事者の方が、いきなり正社員で週40時間働くのは、なかなか難しいという要望がございます。

自分が働けるかどうか、我々のメンバーとの相性が合うかどうかを、責任があまり高くない状態で入っていただいて、お互いの相性などを見極めていただいて、希望があれば、業務委託で仕事をお渡しします。

そして、やって行けそうというお話になりましたら、アルバイトとして、時給制でお支払いします。そこで実績を積んでいただいたら、正社員採用ですね。

これは個人個人で、どこで止まっていただいても良いと思います。正社員は厳しいからアルバイトとか、単発の仕事で、業務委託で月1回という形もあるでしょうし、お金をいただくことに抵抗感を感じる方もおられたら、そこはボランティアと、柔軟に対応ができます。

そして仕事の割り振りに関しては、社員で調整します。一人一人が100%働けなくても、何人かで集まって100%にしようよという発想で行きたいと思います。

「一人一人が100%働けなくても、何人かで100%にする」より引用)

現在、めちゃこまの社員は10人で、無限に増やせるわけではありません。

そもそも、めちゃこまは何の事業で利益を得ているのでしょうか。

「株式会社ウチらめっちゃ細かいんで」の事業内容

めちゃこまの事業内容を、会社概要より引用します。

  • ひきこもり当事者等に対する教育事業(プログラマスタースクール運営)
  • ホームページ・スマートフォンアプリ等の開発・制作事業
  • ITエンジニア等の人材紹介・人材派遣事業

教育事業の方が、制作事業より上にありますね(利益順ではないと思いますが)。

私が冒頭記事を読んだときに思い描いたのは、既に主軸の開発・制作事業がドンとあって、その業務を社員たちに配分することで給料を払うビジネスモデルだったので、どうも想像とは違うのかもしれません。

では、「ひきこもり当事者等に対する教育事業」とはどんな事業なのでしょうか?

めちゃこまのサイトを見る限り、主軸は『在宅でキャリアアップが可能な、仕事保証付きホームページ作成講座「ひきこもりサポート特別コース」』のようです。

「詳細はこちら」をクリックすると、なぜかフロンティアリンク株式会社のサイトに飛びます。

フロンティアリンク株式会社「ひきこもりサポート特別コース」とは

「ひきこもりサポート特別コース」(以下、引用はここから)とは、Webエンジニアを目指して自宅で学べるマンツーマンプログラミング講座です。

4つの特色

  1. 専属のプロ講師が、質問や相談などを「音声+映像+実習画面共有」でサポート。元ひきこもりの講師も在籍し、ひきこもり経験者の視点でもアドバイス可能。
  2. 自宅で好きな時間に自分のペースで受講可能。2~3日に1回、講師とマンツーマンで進捗確認。
  3. KHJ全国ひきこもり家族会連合会の有資格者による、本人+家族「まるごろ安心サポート」(無料相談は月1回・30分まで。追加相談は本人1,500円/回、家族2,000円/回)
  4. 在宅で参加できる有償インターンで就業機会をサポート

では、このコースを受講するのには、いくらかかるのでしょうか?

「仕事保証コース」と「一歩応援コース」の2コース(違いはインターン保証の有無)がありますが、ここでは「仕事保証コース」を取り上げます。

「ひきこもりサポート特別コース|仕事保証コース」の受講料

「仕事保証コース」の入会金は324,000円(税込)、受講料は月額108,000円(税込)です。

サイトに掲載されている受講料モデルを引用します。

「ひきこもりサポート特別コース|仕事保証コース」の受講料モデル

入会金:30万
3ケ月の受講料:30万
6ケ月のインターンシップ:60万
計:120万
かつ、有償インターンシップの期間中は、毎月最大7万円が返ってきます。
実質計:78万円

税込金額だと、324,000円+324,000円+648,000円=1,296,000円になります。

「有償インターンシップなのにお金がかかるの?」と思う方もいらっしゃるでしょう。

私も同じことを思ったのですが、どうも、インターシップ期間中も月額の受講料を払う仕組みになっているようです。

インターシップは時給1,000円(月50時間まで)で、資格試験「HTML Professional level 1」に合格すると時給1,200円、level 2に合格すると時給1,400円になるようです。

つまり、「有償インターンシップの期間中は、毎月最大7万円が返ってきます」というのは、HTML Professional level 2に合格して、最大の50時間働いたとき(1,400円×50時間=7万円)の計算となります。

月額108,000円払って、給料として最高7万円をもらう、1ヶ月あたりマイナス3万円(その他税金など)の計算となり、働くほど赤字になります。

「ひきこもりサポート特別コース|仕事保証コース」は就職を保証するものではない

サイト内Q&Aから引用します。

Q1.仕事保証コースとありますが、どういった仕事内容になりますか?
A1.Aコース(仕事保証コース)は、就職を保証するものではなく、弊社でのインターンシップを保証するコースになります。具体的には、弊社のインターンシップ生として、ホームページの作成や、Webシステムなどの開発の一部を担当していただきます。

Q2.どのくらいの確率で就職できますか?
A2.受講修了後の就職に関しての確率は一概には申し上げられませんが、Aコース受講期間中であればインターンシップは保証します。また、Aコース・Bコースともに、HTML5 Professional 認定資格の合格者については、求人ニーズも大きいですので、当資格合格者については、弊社でも積極的に協力企業等へのご紹介を進めてまいります。

Q4.インターンシップ後の正社員登用への可能性はありますか?
Q4.インターンシップ後に、弊社または関連・関係会社への正社員登用の可能性はございますが、あくまでもご本人のスキルレベルや、エンジニア募集枠の空き等での判断となりますので、確約は出来かねますことを予めご了承くださいますようお願い申し上げます。

つまり、「仕事保証コース」は就職を保証するものではありません。

フロンティアリンク社(引用文中の「弊社」。このページはフロンティアリンクのサイト内)でのインターンシップを、月額授業料10万円を払いつつ受けることを保証、となります。

このコースはある意味、資格試験「HTML5 Professional」合格が1つのゴール(それ次第でインターンの時給が上がる)のように見えます。

この資格が一般的に就転職に有利になるものなのか、それともマイクロソフトオフィススペシャリスト(MOS)のように、パソコン教室はプッシュするけど実際には就転職には全く役立たないものなのかは、詳しい人のコメントを待ちたいと思います。

「仕事保証コース」を他のプログラミング学習サイトと比較

「仕事保証コース」のカリキュラムは下記になります。

  • ステップ1:基礎習得(60時間目安)
    HTML(HTML5)/CSS(CSS3)/Javascript/PHP
  • ステップ2:実習(60時間目安)
    仕様書通りに/作りたいWebサイト・システム作成
  • ステップ3:インターン(月最大50時間)
    フロンティアリンク社のWebサイト・システムの作成業務を一部担当
    HTML5 Professiona認定試験に挑戦・合格後は業務委託など

サイトでは、他のプログラミング専門学校(年間140~165万円)と学費を比較していますが、比較対象が通学制の学校と思われるので、同じ在宅プログラミング学習サービスと比較してみましょう。

  • ドットインストール:月額980円(税込)/無料でも一部は学習可
  • Progate:月額980円(税込)/無料でも一部は学習可
  • Codecademy(英語):無料で十分学習可
  • Udemy:動画買い切り(1万円以上の動画を、常にセール状態で1,200円程度で販売)

(高校生程度の英語ができるなら、Codecademy以外に多種多様な英語圏サイトがあります。Udemyを挙げていますが、それよりも良いサービスはあると思います)

「仕事保証コース」のカリキュラムにある、HTML5/CSS3/Javascriptまでは、正直ドットインストールかProgateで十分だと思います。

PHPの学習にはそれだけでは足りないと思うので、類似サービス内でたぶん最も授業料が高いレベルのTechAcademyにおける、「仕事保証コース」と同等のコースの授業料と比較します。

TechAcademy「PHP/Laravel+フロントエンドセット」
入会金なし+228,000円~398,000円(受講期間2ケ月~半年・税抜)
学習内容:HTML5/CSS3/JavaScript/jQuery/PHP/Laravel/SQL/Git/GitHub/Bootstrap/Heroku/WebAPI/Firebase/サーバー

「仕事保証コース」において、インターン前に3ヶ月学習すると、入会金30万+授業料30万=60万×1.08=648,000円です。
TechAcademyでそれに相当するのは、12週間コースの268,000円×1.08=289,440円となります。

私はRuby・Ruby on Railsの勉強中で、TechAcademyの受講を検討したことがあります。
TechAcademyなどオンラインブートキャンプ系サービスにおける最大の魅力は、「作りたいWebサイト・システムについて質問できる」点です。
だけど、「高すぎる…。受講する前に独学して、自分が作りたいサイトを作り、いつでも質問できる状態にしてから受講しよう」と思った覚えがあります。

「仕事保証コース」は、私が高いと思ったTechAcademyの2倍以上かかるんですね……。

個人的な感想を書くと、元ひきこもりだった私がひきこもっていた期間にこれを利用するだろうかと考えると、入学金30万の時点で無理です。
たぶん、入学金を高めに設定することで当面の利益を確保して、月額授業料をその分安くしているシステムなのでしょうが。

入学金30万の時点で、このサービスの訴求層はひきこもり本人ではなく、その親なのだろうと思いました。

子どもがひきこもりを脱して、履歴書にインターンの経歴を書けるようになると思えば、この受講料を安く感じる人たちもいるのでしょう。

ひきこもりの人材派遣

「仕事保証コース」は、就職を保証するものではありません。
では、このコースを修了した人たちは、その後どうなるのでしょうか。

めちゃこまの事業内容の一つに、「ITエンジニア等の人材紹介・人材派遣事業」(2018年度より開始予定)があります。
私が思うに、「仕事保証コース」で集まった人たちを人材派遣することで、利益を上げるつもりなのではないでしょうか。

私は世の派遣会社はすべて無くなればよいと思っていますが、仮にひきこもりの人同士のワークシェアリングが可能であれば、この場合はありかなと思います。

派遣会社は人材を派遣しっぱなしで楽にマージンを稼いでいるという印象がありますが、ひきこもりの人が急に休んでもフォロー・サポートできるような独自の仕組みを作ることができるのであれば、他の派遣会社と差別化でき、多様な働き方の提案ができるのではないでしょうか。
例えば、2~3人で1組にして、午前はAさん・午後はBさんなどという形で、一つの仕事をシェアする(急に休んでも、もう1人いるから1日休みは防げる)など。

最後に

現時点では、「株式会社ウチらめっちゃ細かいんで」「フロンティアリンク株式会社」及び、社長の佐藤氏が参加している、全国のひきこもり当事者ネットワークとして2018年5月に設立したNPO法人「Node」については、判断を保留します。

ただ、ひきこもり就労支援を、利益を上げるビジネス(=株式会社)として成立させることの難しさを漠然と感じたとだけ記しておきます。


参照させていただいた記事:
(めちゃこま記者会見の議事録を公開した「ひきポス」様に多謝)

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「(株)ウチらめっちゃ細かいんで」社員のひきこもり経験
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