老後の過ごし方を考える上で、自分がひとりになり、しかも認知症になったらどうしたらよいのだろうという悩みは1つのポイントだと思う。
2022年10月、再放送していたNHK「Dearにっぽん」の「最期を託し、託されて」回では、身寄りのない認知症の高齢者の代わりに老人ホームの転居手続きを行う、身元保証人を代行するNPOが取り上げられていた。
今日は、身元保証人がいない高齢者が利用できる身元保証サービスについて調べてみたい。
身元保証人の代行サービスとは
そもそも、身元保証人を代行するサービスとは具体的に何か。2017年に日本総合研究所が実施した調査の報告書から、定義を引用したい。
身元保証等高齢者サポート事業とは、主に一人暮らしで身寄りのない高齢者を対象として、身元保証や日常生活支援、死後事務等に関するサービスを提供するものである。ただし、このようなサービスに対する公的な定義は存在せず、日本ライフ協会の破たんを機に行われた消費者委員会の実態調査の中で用いられた用語・定義である。
引用:地域包括ケアシステムの構築に向けた公的介護保険外サービスの質の向上を図るための支援のあり方に関する調査研究事業|日本総合研究所
つまり、身寄りのない高齢者に次のサービス等を提供する事業を指しているが、公的な定義はないとのことだ。
- 身元保証:病院や介護施設等に入院・入所する際の、費用の支払いの保証など
- 日常生活支援:買い物の手伝い、親族への連絡など
- 死後事務:部屋の原状回復、遺体の確認・引き取りなど
これらのサービスについては、民間の身元保証サービスを利用する前に、まず自治体や社会福祉協議会、地域包括支援センターなどに相談したほうがいいだろう。
参照:「身元保証」や「お亡くなりになられた後」を支援するサービスの契約をお考えのみなさまへ
前述の調査によると、身元保証サービスを行う民間の事業者はここ10年ほどで急増し、2017年時点で調査の対象になったのは91事業者だった。また、1,000人以上の契約者を抱えるのは全国でも2社のみで、大半は地域に密着した中小事業者であるため、成熟したサービスとは言い難いだろう。
民間における身元保証人の代行費用はいくら?
気になるのは、身元保証人の代行にはいくら費用がかかるのかという点だ。一例として、NHK「Dearにっぽん」で取り上げられた、名古屋を中心に東海・大阪・首都圏で活動している認定NPO法人「きずなの会」でかかる費用を紹介する。
必須料金
* きずなの会基本料金 51.6万円
* 弁護士法人基本料金 12.6万円
+下記を組み合わせ
* A:身元保証支援 19.8万円
* B:生活支援 33万円
* C:葬送支援 73万円
たとえば、このような料金になる。
- 身元保証支援のみ:必須料金+A=計84万円
- 身元保証支援+葬送支援:必須料金+A+C=計157万円
- 身元保証支援+生活支援+葬送支援:必須料金+A+B+C=計190万円
うーん、私のような貧乏人にはとても利用できない……。同じく、NHKで過去に取り上げられていた一般社団法人「えにしの会」では、費用をホームページで公開していない。
身元保証等高齢者サポート事業を行う自治体
民間の身元保証サービスは費用がかかるので、自治体が提供している類似のサービスを利用できればそちらのほうがよい。全国で類似のサービスを行っている自治体は、2017年の調査時点では次の通り。
- 横須賀市「エンディングプラン・サポート事業」「わたしの終活登録」
- 足立区社会福祉協議会「高齢者あんしん生活支援事業」
- 品川区社会福祉協議会「任意後見制度<あんしんの3点セット>」
- 船橋市居住支援協議会
- 半田市「身元保証ガイドライン」
- 伊賀市「地域福祉安心保証事業」(※2017年時点で事業停止中)
- 神戸市居住支援協議会 * 熊本市居住支援協議会
調査報告書には掲載されていない、類似の事業を行っている自治体は次の通り(探せたもののみ)。
自治体では、横須賀市を筆頭に「終活情報登録」を行っているところが多い。終活情報登録とは、緊急連絡先などの情報を市に登録しておくことで、万が一の時に市が病院等からの問い合わせに答えてくれる制度だ。
死後事務を代行:横須賀市「エンディングプラン・サポート事業」
これらの自治体の中では、横須賀市が先駆けの存在といわれている。
前述の調査によると、横須賀市では2005年くらいから引き取り手のいないご遺体が急増した。自治体にはそのような遺体の火葬義務があり、業者に依頼して火葬後は市役所内で一時保管、引き取り手がいなければ無縁納骨堂に数年安置した後で合葬している。
また、横須賀市の独居高齢市民のうち約19%が生活保護受給者であり、死後事務サービスを提供しているNPO等の団体と契約するような金銭的ゆとりがないことから、横須賀市では2015年に「エンディングプラン・サポート事業」を開始した。
このような背景から、横須賀市の終活事業が対象としているのは次の条件が揃った人だ。
- 身寄りがない
- 月収18万円以下
- 預貯金等が225万円以下程度
- 固定資産評価額が500万円以上の不動産を持っていない
- 高齢者等の横須賀市民
サポートの内容は「死後事務」に含まれるもので、生前に支援プランを策定、市の協力葬儀社と葬儀や納骨に関する生前契約を結んでおき、葬儀等の費用(生活保護基準+納骨費用。2022年度は26万円)を市に預けておく。万が一の際には、市が支援プランに従ってリビングウィル(延命治療意思)や葬儀等を執り行ってくれる。
身元保証・日常生活支援・死後事務を代行:足立区
身元保証を代行してくれる自治体は、上で列挙した中でも少ないが、足立区社会福祉協議会「権利擁護センターあだち」が行っている「高齢者あんしん生活支援事業」を紹介しておく。
主なサービス内容
- 基本サービス:月1回の電話、半年に1回の訪問で様子を伺う
- あんしんサービス:入院時と施設入所時の支援。同席や入院費用の支払い等
- 生活支援サービス:預貯金の払い戻し、郵便物の確認、区役所の手続き代行等
- 書類等預かりサービス:通帳など重要書類の預かり
- 逝去後は遺言執行者の依頼に基づき、預託金から火葬費用の支払いや葬儀等の死後事務支援等
費用
- 預託金 52万円
- 年会費 2,400円
- あんしんサービス 1,000円/回
- 生活支援サービス 1,000円/1時間
- 書類等預かりサービス 1,000円/月
自治体のサービスでも、やはり預託金は50万円を超えるのか……。横須賀市でも葬儀等の費用を26万円(2022年度)を預けるので、自治体のサービスを利用するにしても、死ぬまでに100万円程度の貯金は必要なのだろうか。
まとめ
私がこの記事を書いたのは、元々は自分が老後に身寄りがなくなった上、認知症になったらどうしたらよいかと悩んでいたところ、NHK「Dearにっぽん」で、身寄りのない認知症の高齢者に代わって、老人ホームの転居手続きを代行するNPO「きずなの会」の仕事ぶりを目にしたからだ。
しかし、今回こうして調べてみて、民間の身元保証サービスは思ったより費用がかかること、自治体によっては類似のサービスがあることが分かった。
身元保証サービスの利用を検討する際には、まず自分がどのようなサービスを必要なのか(身元保証/生活支援/死後事務)を明確にした上で、かかる費用と自分のおサイフ状況を照らし合わせて、自分に支払い能力があるのかを見極める必要がある。
もし支払い能力が高かったとしても、民間の身元保証サービスでは過去、約9億円を高齢者から預かっていた「日本ライフ協会」が一部の預託金を不正流用したうえ破綻した事件もあるので、契約には相当慎重に臨んだほうがよい。